👻 怪異分類
妖怪・怪異の分布 — どの作品で主役/登場するか(本文から抽出)
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霊系(4種)

幽霊

扱い 16 作品(⭐=主役)
『お文の魂』⭐、『石燈籠』、『お化け師匠』⭐、『奥女中』、『春の雪解』、『津の国屋』⭐ 他10
『半七捕物帳』の幽霊譚は総じて『ほんとうの怪談ではない』。『お文の魂』・『津の国屋』・『幽霊の観世物』・『二人女房』・『お化け師匠』など、見せ物・陰謀・愛憎に利用され、≪人間が幽霊を装い又は事故死を幽霊騒動に紛れさせる≫のが基本構図。『お文の魂』は無心の幼児の叫びを利用した偽りの怪談、『お化け師匠』は養母の虐待死、『津の国屋』は家柄乗っ取り策、観世物は幽霊見世物を利用した殺人、『二人女房』は商家の金に絡む殺人。正体は全て作り物。

化け物・お化け

扱い 12 作品(⭐=主役)
『お文の魂』、『お化け師匠』⭐、『朝顔屋敷』、『津の国屋』、『お照の父』、『化け銀杏』⭐ 他6
お化け・化け物は『お化け師匠』(綽名の踊り師匠が蛇に殺される)、『化け銀杏』(銀杏の精の伝説)、『幽霊の観世物』(幽霊人形の見世物)で中心的。いずれも正体は人間の仮装・陰謀・事故で、本物の化物ではない。かつて江戸で流行ったお化け屋敷・化け物屋敷の趣向が引用される。『柳原堤の女』では青い鬼・大入道・九尾の狐と噂が化けていく。

死霊

扱い 6 作品(⭐=主役)
『お文の魂』、『お化け師匠』、『津の国屋』、『小女郎狐』、『金の蝋燭』、『菊人形の昔』
死霊は『津の国屋』で死んだお安の「死霊の祟り」が語られるが、真相は人間の御家乗っ取り計画(矢場女・お兼の化け物芝居)。『金の蝋燭』では大道易者「おまえさんには死霊が祟っている」などの言及が作中人物の言葉・信仰に限られる。『お文の魂』は冒頭の「執念深い男の死霊」といった幽怪伝説への言及。いずれも本物の怪異ではない。

生霊

扱い 3 作品(⭐=主役)
『お文の魂』、『小女郎狐』、『菊人形の昔』
生霊は『お文の魂』で「嫉み深い女の生霊」が江戸末期の幽怪伝説として念頭に挙げられるが、真相は人間の陰謀。『小女郎狐』・『菊人形の昔』でも生霊・死霊の言葉が比喩的に出る(『菊人形の昔』では市子が梓の弓を鳴らして生霊や死霊の口寄せをする)。中心的な怪異ではない。

動物系(10種)

扱い 15 作品(⭐=主役)
『奥女中』、『三河万歳』、『お照の父』、『小女郎狐』⭐、『狐と僧』⭐、『柳原堤の女』 他9
狐は『小女郎狐』・『狐と僧』・『妖狐伝』・『菊人形の昔』で中心的。いずれも「人が人を化かす」で狐の正体は人間。『小女郎狐』は姉の仇討ちの巧妙な隠れ蓑、『妖狐伝』は外国人(ジョージ)と贋金づかいお此の犯罪が狐火・天狗と重ねられ、結局「狐が人を化かすのでない、人が人を化かす」。『菊人形の昔』は狐使いおころが殺され管狐の所在は不明。『狐と僧』は寺の派閥抗争。『柳原堤の女』では噂の変遷の果てに「九尾の狐」まで語られるが実体は別。その他は狐の俗信・比喩が引用されるのみ。

扱い 11 作品(⭐=主役)
『湯屋の二階』、『お化け師匠』⭐、『帯取りの池』、『向島の寮』、『蝶合戦』、『あま酒売』 他5
蛇は『お化け師匠』・『雷獣と蛇』・『かむろ蛇』で中心的な怪異として扱われるが、いずれも正体は人間の仕業。『お化け師匠』は怪僧(御符売り)が飼い慣らした蛇を使った黒蛇殺人、『かむろ蛇』は子役の狂言(頭の黒い大蛇は明治初年のいかさま観世物にも流用)、『雷獣と蛇』は女犯どもが蛇をあやつって従者を殺した事件。『向島の寮』では土蔵に大蛇を祀る芝居は人為的な罠で、蛇の実在は作中でも未解決。『あま酒売』の蛇神血統の怪は「蛇神も箱根を越せば唯の人間」と伝えられる。

猫又・化け猫

扱い 6 作品(⭐=主役)
『猫騒動』⭐、『三河万歳』、『槍突き』、『鬼娘』、『十五夜御用心』、『薄雲の碁盤』
『猫騒動』では『猫ばばあ』おまきの顔が息子の眼に猫に見えたという奇怪な出来事が中心。真相は人間犯罪でも単なる作り物でもなく、二人の眼に本当に猫に見えた(乗り憑きめいた不思議な現象)とされ、半七老人も「不思議なこともあるもんですね」と疑いを残して曖昧に終わる。『三河万歳』では白猫の踊りを「化け猫」と誤認、『槍突き』では黒猫の死骸から「化け猫が出る」噂が立つが正体は人間の悪戯。その他は化け猫の俗信が引用される程度。

河童

扱い 6 作品(⭐=主役)
『半鐘の怪』、『広重と河獺』、『お照の父』⭐、『張子の虎』、『海坊主』、『むらさき鯉』
『お照の父』では、酔った武士が田圃へ「河童をほうり出した」と言われる珍事が中心。その正体は観世物小屋の芸(河童頭に剃らせ鍋墨で黒く塗り、尻に金紙銀紙を貼って眼玉に見せかける。木戸銭八文)で、真相は人間の事件に絡む。『海坊主』では「わたしゃ葛西の源兵衛堀、かっぱの伜でござります」と唄う乞食や、河童といえば生の胡瓜を食うもの・棲家は源兵衛堀と伝えられた俗信が語られる。その他は『半鐘の怪』の「河童らしい」証言など俗信・比喩。

河獺

扱い 5 作品(⭐=主役)
『広重と河獺』⭐、『津の国屋』、『お照の父』、『海坊主』、『むらさき鯉』
『広重と河獺』では、河獺が事件の謎を呼ぶが、実体は荒物屋の十右衛門が嫉妬の復讐心から政吉を嵌めようとする人間の陰謀。ただし物語末尾で実在の河獺が現れて(財布の紐で自分で自分の首を絞めて死に)政吉の冤罪を証明する「無言の証人」となる妙味がある。「河童がどうのこうのというのは大抵この河獺の奴のいたずら」と半七老人が説明し、昔は向島・千住のほか愛宕下の桜川などにも巣を作っていたと回想する。その他は向島に河獺も出たという俗信。

扱い 4 作品(⭐=主役)
『お照の父』、『小女郎狐』、『狐と僧』、『地蔵は踊る』
狸は中心的な怪異としては扱われず、向島が「狸も出れば狐も出る、河獺も出る、河童だって出そうな所」であるという俗信(『お照の父』)や、伯蔵主の狐・茂林寺の狸のむかし話(『狐と僧』)、「狐か狸のようにいぶしてしまった」という言い回し(『小女郎狐』)、高源寺裏の山に「人を化かすような古狢が棲んでいる」という噂(『地蔵は踊る』)として登場するのみ。いずれも真相は人間の事件。

猿(猿芝居)

扱い 4 作品(⭐=主役)
『半鐘の怪』、『少年少女の死』、『幽霊の観世物』、『歩兵の髪切り』
『半鐘の怪』では、夜中にひとりでに鳴る半鐘の正体が、両国の猿芝居で「打てば打たるる櫓の太鼓」の所作を覚えた猿が火の見梯子で撞木を打っていたというもの(火の見梯子の獣の爪の跡も根拠)。「囲い者の傘の上に飛び付いたり……どうしても猿公の仕業らしゅうござんすからね」。その他は常磐津「靭猿」(猿曳・女大名・奴・猿の四人立)の狂言(『少年少女の死』)、観世物の「爪の長い猿のような怪物」(『幽霊の観世物』)、「猿か狐の仕業」と言い慣わされた髪切りの風説(『歩兵の髪切り』)。

蝶(蝶合戦)

扱い 2 作品(⭐=主役)
『蝶合戦』⭐、『白蝶怪』⭐
『蝶合戦』では、万延元年六月末に白い蝶が幾万と群がって乱れ飛ぶ怪異が前兆と騒がれるが、正体は善昌という僧侶が金儲けのために仕組んだ作為(弁財天のお告げと称する予言で祈祷料を巻き上げる芝居)。「みんな嘘の皮」と半七老人は断じる。『白蝶怪』では、長崎の唐人屋敷の南京人から伝えられた「暗夜に白い蝶を飛ばして千人の眼をおどろかせれば、いかなる心願も成就する」という邪法が中心。蝶は唐渡りの薄い絹のような物で作り、一種の薬を塗ってあり暗い中でも白く光り、菅糸を付けて飛ばされた。

雷獣

扱い 1 作品(⭐=主役)
『雷獣と蛇』⭐
落雷の時には雷獣が一緒に落ちて来て、襖障子や柱などを掻き破ってゆくということはその時代の人々に信じられていた。「日光なんぞの山のなかに棲んでいるのは当りまえでしょうが、江戸時代には町なかへも雷獣があらわれて、それをつかまえたという話はたびたびありました」。本作では、おかんの白状によると最初の落雷の時には本当に雷獣を見たという(稲妻のように影を消した獣)。二度目(重吉の死体の掻きむしり)はおかんの偽装。雷死は検視をしない決まりも語られる。

扱い 1 作品(⭐=主役)
『熊の死骸』⭐
熊は麻布の古川の熊の膏薬屋が店の看板代りに飼っていた実在の動物で、火に驚いて逃げ出したものと本文に明記される。お絹の「熊が来た」という囈言は仮病の演技と判明した。火事場どろぼうが盗んだ品が熊の死骸という特異な物のため罪が軽くなり追放程度で落着した(半七老人の説明)。熊の胆・熊の皮が高い値の薬材・素材とされていたことが動機となる。※熊の実在性は本文に明記あり(膏薬屋の飼い熊)。

妖怪・怪異(25種)

天狗

扱い 7 作品(⭐=主役)
『広重と河獺』、『朝顔屋敷』、『少年少女の死』、『妖狐伝』⭐、『かむろ蛇』、『河豚太鼓』 他1
『川越次郎兵衛』では、城に現れた男が『天狗に攫われて川越から江戸まで宙を飛んで来てお城のなかへ落とされた』と言う方便が中心で、それは番人の責任を免れるための人為的な言い訳(「前が天狗で、後が旋風」と半七は解説)。『妖狐伝』では顔の赤い大天狗の姿は外国人ジョージの変装(口から吐く火焔は巻煙草のけむり)。『朝顔屋敷』・『少年少女の死』は神隠し信仰の文脈で天狗が信じられていた時代を描く。正体はいずれも人間。

鬼・鬼っ児・鬼娘

扱い 5 作品(⭐=主役)
『三河万歳』⭐、『鬼娘』⭐、『化け銀杏』、『柳原堤の女』、『夜叉神堂』⭐
鬼娘では『鬼むすめ』(白地の手拭・跣足・紅を濃く塗った大きい口の若い女が女たちの喉笛を「啖い殺す」)が世間を恐れさせるが、正体は犬を使う間接殺人(「江戸の町奉行所が開かれて以来、こんな人殺しの記録はかつてなかった」)。『三河万歳』では上顎に牙が生えた『鬼っ児』(因果者)の嬰児が中心で、香具師の見世物の種として扱われる。『夜叉神堂』では鬼の面奉納の慣習と夜叉神の伝説を背景に、実際は泥棒の犯行が「夜叉神堂の祟り」という噂に化けた。『柳原堤の女』では「青い鬼」の顔の女が目撃される。いずれも正体は人間。

化け物屋敷

扱い 4 作品(⭐=主役)
『お文の魂』、『朝顔屋敷』、『雷獣と蛇』、『青山の仇討』
昔は方々に空屋敷があって「化け物屋敷」などと呼ばれた。『お文の魂』は冒頭で江戸末期に最も多く行なわれた「化け物屋敷の不入の間」などの陰惨な幽怪伝説への言及。『朝顔屋敷』は「皿屋敷、朝顔屋敷、とかくに番町に化け物屋敷のようなものの多いのは、この時代の名物」。『青山の仇討』では元の住人が懸け取りに来た手代を絞め殺した露顕後の空き家に「幽霊が出る・鬼火が燃える」という噂が立つが、泣き声の正体は監禁されたおさんのものだった。内藤右之助の旧邸は『雷獣と蛇』の一件以来「蛇屋敷」と云い出され、明治になるまで誰も住んでいなかった。

犬神

扱い 3 作品(⭐=主役)
『鬼娘』、『あま酒売』、『蟹のお角』
四国の犬神の俗信。鬼娘ではお紺の逮捕後に「お紺は犬神使いだ」という噂が流れた(正体は二匹の犬を使う間接殺人)。『あま酒売』では半七の懇意な九州の人の話として「四国の犬神、九州の蛇神――昔から名高いものだそうです」と語られる。『蟹のお角』では松吉が「四国にゃあ犬神使いというのがあるそうだ」と言及する(真偽の断定は本文に明記なし)。

神隠し

扱い 3 作品(⭐=主役)
『朝顔屋敷』、『少年少女の死』、『河豚太鼓』
この時代に一般に信じられていた神隠し信仰。子供ばかりでなく相当の年頃の人間でも突然姿を消し、五日・十日・半月以上、長いのは半年一年ぐらい行方不明になり、ふと戻る例がしばしばあった。戻り方は常とは違う(門前に倒れている・裏口にぼんやり突っ立っている・屋根の上でげらげら笑っている)。奇怪な山伏(おそらく天狗)に連れられて遠い山奥へ飛んで行ったと語る者もいた。「この時代に生まれた半七はまんざらそれを嘘とも思っていなかった」(『朝顔屋敷』)。『少年少女の死』は「神隠しばかりでなく、人攫いということも此の時代には多かった」とし、『河豚太鼓』は「普通は天狗に攫われると云っていたが、嘘か本当か請け合われない」と語る。

妖狐

扱い 2 作品(⭐=主役)
『小女郎狐』、『妖狐伝』⭐
『妖狐伝』では、鈴ヶ森の縄手に妖狐や狐火が出ると騒がれるが、それは入墨者のお此の悪戯(西洋マッチの火の玉、靴墨を塗ったブラッシで人の顔を撫でるなどが種。本人は実際の悪戯は七、八回と語る)。「狐が人を化かすのでない、人が人を化かすのである」と半七老人が締めくくる。「探偵話にほんとうの凄い怪談は少ないもので、種を洗えばみんなズウフラ式ですよ」も同作の持論。

ろくろ首

扱い 2 作品(⭐=主役)
『弁天娘』、『幽霊の観世物』⭐
『幽霊の観世物』では『ろくろ首の娘』の看板を出す観世物小屋が舞台として登場する。見せ物の趣向であり、真相は人間の殺人(幽霊見世物を利用)。『弁天娘』では、事情を知らない者がお此を「轆轤首であるとか、行燈の油をなめるとか云い触らした」と噂される。ろくろ首そのものが本物の怪異として現れるわけではない。

狐火

扱い 2 作品(⭐=主役)
『小女郎狐』、『妖狐伝』
『小女郎狐』では、五人の葬式の宵(ここらの葬式は夜)、寺のうしろの丘の上に無数の狐火が乱れて飛んでいるのを見た者があった。『妖狐伝』では鈴ヶ森の縄手に妖狐や狐火が出ると騒がれるが、正体はお此の悪戯(西洋マッチの火の玉が種)。

化け銀杏

扱い 1 作品(⭐=主役)
『化け銀杏』⭐
森川宿の松円寺の大銀杏にまつわる化け銀杏の伝説(銀杏の精が小児に化けて提灯の火を取る、御殿風の大女房が樹梢に腰をかけて扇を使っていた、暗闇で足をすくわれるなど)。本作ではすべて人間の仕業として解決され(小坊主のいたずら・長作の強奪・お豊の「女の幽霊」)、結末に寺社奉行の命令で往来に差し出ている枝をみな伐り払われてしまった。正体は人間の取引詐欺で、『化け銀杏』そのものはモチーフに過ぎない。

一つ目小僧

扱い 1 作品(⭐=主役)
『一つ目小僧』⭐
十三四歳の茶坊主の姿で現れ、左の眼ひとつ、口は両方の耳のあたりまで裂け、大きい二本の牙があった。ただし「絵にかいてあるいわゆる一つ目小僧のように、顔のまん中に一つの目があるのではなかった。単に左の目が一つ光って見えたらしかった」。正体は小按摩の周悦のこしらえもので、片目は元からの片目(子供の時に竹きれで眼を突き潰した)、口の裂けは絵の具、牙は象牙の箸。空屋敷の台所の六畳を楽屋にして化けた。正体は人間の強請・詐欺で、本物の妖怪ではない。

半鐘の怪

扱い 1 作品(⭐=主役)
『半鐘の怪』⭐
夜中にひとりでに鳴る半鐘(見張っている間は鳴らず、油断すると鳴る。撞木を取りはずしても鳴った)。お北の傘が石のように重くなり裂け眼に見えない手が髷を引っ掴む、小児の赤い着物が屋根から屋根へ歩く、引窓の穴から二つの大きい光った眼など一連の怪異の正体は、芝居の所作を覚えた猿の仕業と、意趣返しの人間の仕業(権太郎の兄)が重なったもの。「なにもかもみんな猿公の悪戯」として処理される。伝七の「河童らしい」という証言は誰も信用しなかった。

海坊主

扱い 1 作品(⭐=主役)
『海坊主』⭐
海のなかから現れ生魚を頭からむしゃむしゃ食い匕首を忍ばせる奇怪な男の正体は、島流しから脱走した無宿・万吉(「人間の癖に水のなかに棲んでいて、時々に陸や船にあがってくる。まったく河童の親類のような奴だ」と半七は評した)。人魚・河獺・河童・『海坊主』・仙人・気ちがいなど様々に取り沙汰されるが、人間の仕業で怪異の本物ではなかった。

管狐

扱い 1 作品(⭐=主役)
『菊人形の昔』⭐
狐使いおころが飼う『管狐』が話題の中核をなし、細い管のなかに身をひそめ滅多に姿を見せず、主人に吉凶禍福や失せ物・尋ね人のありかを教える俗信が語られる。おころが殺されたため管狐がどこかに隠してあるのか、逃げたのか、本当にあるのか無いのかは、本文も「それらのことも判りません」と断定を避けている。真相は人間の犯罪(狐使い殺害・異人事件)。

雪達磨

扱い 1 作品(⭐=主役)
『雪達磨』⭐
「雪達磨の中から座禅を組んだような人間の死骸が出て来た」という猟奇的な発見場面のみが怪異的趣向で、正体は贋金つかい一味の遺体隠し(雪が証拠を隠し、融けて明かす趣向)。落とした南京玉(贋金の地金)が捜査の手掛かりになる。怪談ではなく捕物実話として語られる。

小女郎狐

扱い 1 作品(⭐=主役)
『小女郎狐』⭐
『小女郎狐』(こじょろうぎつね)。昔からこの土地に棲んでいろいろの不思議をみせると云い伝えられる狐で、ある時は美しい女に化けて往来の人をたぶらかし、美少年にも大入道にも化ける。あるときは立派な大名行列を見せ、源平屋島の合戦をみせる神通力を持つと伝えられる。土地の者は「小女郎さん」と畏れうやまい、危害を加えようとする者はいなかった。事件の正体はおこよの妹お竹(十四歳)の仕業で、「小女郎狐の正体はことし十四の少女であった」。

かむろ蛇

扱い 1 作品(⭐=主役)
『かむろ蛇』⭐
氷川明神の山に棲むという『かむろ蛇』の伝説。(1)胴の青い頭の黒い蛇で、昔の子どもの切禿に似ているからかむろ蛇と云う、(2)天気の曇った暗い日には森のあたりに切禿の可愛らしい女の児が遊んでいて、その禿は蛇の化身で、それを見たものは三日のうちに死ぬ。実例として安永年間の呉服屋のせがれの急死が語られる。正体は本作では子役・力三郎の狂言(次右衛門・お由・大吉の共謀)。明治初年には青大将にコールターを塗った「頭の黒いかむろ蛇」のいかさま観世物も出た。

朝顔の祟り(朝顔屋敷)

扱い 1 作品(⭐=主役)
『朝顔屋敷』⭐
遠い先代の主人が妾を手討ちにした。盛夏のことで、その妾は朝顔の模様を染めた浴衣を着ていた。以来、朝顔がこの屋敷に祟り、屋敷内に朝顔の花が咲くと必ず凶事があるとされる。中間どもが毎日見回り、花の咲きそうな朝顔・夕顔の蔓を片っ端から引き抜く。朝顔の絵をかいた団扇を暑中見舞いに持って来た商人が出入りを差し止められたという噂もある。「皿屋敷、朝顔屋敷、とかくに番町に化け物屋敷のようなものの多いのは、この時代の名物」。祟りが実在するかは作中でも断定されない(半七は「そうかも知れません」と応じるのみ)。

帯取りの池

扱い 1 作品(⭐=主役)
『帯取りの池』⭐
池の上に美しい錦の帯が浮いているのを旅人が見つけ、取ろうとしてうっかり近寄ると忽ち帯に巻き込まれて池の底へ沈められるという伝説。①池のぬしが錦の帯に化けて通りがかりの人間をひき寄せる説、②大蛇が水の底に棲んでいる説、③水練に達した盗賊が錦の帯を囮に旅人を引き摺り込んで懐中物や着物を剥ぎ取る説。実在の池は市ヶ谷・月桂寺の西、尾州家中屋敷の下にあり、万延版の江戸絵図に記載。本作では伝説の「帯」がおみよの遺品の帯と重なって大騒動になるが、結局は現実的な解決(自殺の遺品を池に捨てた)をみる。

縛られ地蔵(地蔵踊り)

扱い 1 作品(⭐=主役)
『地蔵は踊る』⭐
願掛けをする者が地蔵を荒縄で幾重にも縛って置き、願が叶えば縄を解く「縛られ地蔵」の風習。江戸にも二、三カ所あり、小石川茗荷谷の林泉寺が世間に知られていた。本作では高源寺の縛られ地蔵が「日が暮れる頃から前後左右にがたがた揺れる」地蔵踊りをすると噂され、「この踊りを見たものは、今年のコロリに執り着かれない」と云い触らされた。怪異は全て人為的仕掛け(穴熊=いかさま博奕の手法を応用し、抜け道から人が入って揺らしていた。亀吉の「地蔵が踊るのじゃあねえ、踊らせるのですよ」)。

蛇神(九州の伝説)

扱い 1 作品(⭐=主役)
『あま酒売』⭐
蛇神の血統(九州の伝説)。その血をうけて生まれた者は一種微妙の魔力を持ち、強い感情(妬む、憎む、怨む、羨む、呪う、慕う、哀む、喜ぶ、恐れる)がみなぎったときに眼のひかりで相手を魅し、相手は大熱に犯され蛇のように蜿うちまわる。故意には使えず、自然の作用で自分自身にも抑えることも働かせることも出来ない。村ではほかの家筋との婚姻を禁じていた。「蛇神も箱根を越せば唯の人間になってしまう」という伝説も語られる(ただしお綱には当てはまらなかった)。半七老人は結びに「それも一種の催眠術だとでも云うかも知れませんね」と述べる。

大入道

扱い 1 作品(⭐=主役)
『柳原堤の女』
柳原堤の清水山の怪異の噂の変遷(日暮れ後の女の影→青い鬼の顔→大蛇の精・柳の精→大入道・九尾の狐)の一段階として登場し、瓦版で売り歩かれるまでに発展した。最終的に「貂に似た怪獣が棲んでいるため」という説明で落ち着いた。八丁堀同心らは「大入道や九尾の狐を問題にはしなかった」が一応の念のため取り調べた。

九尾の狐

扱い 1 作品(⭐=主役)
『柳原堤の女』
柳原堤の清水山の怪異の噂の変遷の果てに「大入道・九尾の狐」とまで発展し、瓦版で売り歩かれる。捕獲された実体は四尺あまりの鼬に似た獣(おそらく貂であろうと判断されたが、得体の知れない一種の怪獣と見なされ、両国の見世物小屋に「九尾の怪獣」として晒された)。

大森の鶏

扱い 1 作品(⭐=主役)
『大森の鶏』⭐
店の飼い雄鶏が旧主人のお六にだけ執念深く飛びかかり(口嘴・蹴爪・五、六尺飛び上がる。「燃えるような眼のひかりが鷹よりも鋭い」)、突き蹴って大怪我をさせる。お六は「恐らく死んだ亭主の魂が鶏に乗憑ったのでしょう」と語るが、半七は「鶏の料簡は誰にも判りませんから思い思いに判断するのほかはありません」と断定を避け、正体は本文で確定されない。「畜生だって相当の料簡がねえとは云えねえ。主人を救った犬もある。恨みのある奴を突き殺した牛もある」と半七の考察も語られる。

髪切り(魔物の仕業)

扱い 1 作品(⭐=主役)
『歩兵の髪切り』⭐
家の中で寝ているうちに自然に髪を切られる例は「魔物の仕業」とされた(女が多かったが男も切られた。島田髷が枕元にころりと落ちていたという例も挙げられる)。江戸時代の髪切りは「魔物の仕業」「猿か狐の仕業」と言い慣わされていたが、今度は「豹の仕業」という奇抜な噂が立った(幕府の歩兵の綽名「豹」にかけた洒落)。暗い往来で切られる被害は先ず女に決まっていた別の類(女の髪切りは「こんにちの言葉でいえば一種の色情狂」)も説明される。

蛇こしき

扱い 1 作品(⭐=主役)
『雷獣と蛇』
「たくさんの蛇がうず高く盛りあがって大きい輪をつくっているのは蛇こしきとかいって、そのなかには、珍らしい玉がかくれていると、昔の人たちは云った」。実際に「そのとぐろのなかには玉がある」という噂が立った。『雷獣と蛇』で『雷獣と蛇』の事件の背景として語られる伝説。